書籍

FMC東京クリニックの書籍です。

中村靖『NIPT時代における実践的妊娠初期胎児超音波検査[Web動画付]』(メジカルビュー社・2025年)

内容紹介

 妊娠初期の胎児の観察は,NIPTの時代に入って,NT計測を主体とするスクリーニング目的の検査から,より詳しく胎児の構造を観察して,重大な異常をより早期に発見する検査へと変貌しつつある。わが国ではあまり馴染みのない形態異常をみる妊娠初期胎児超音波検査は,多くの国々で実施されており,かつて妊娠中期に確認された胎児形態異常を妊娠11〜14週の初期に見て診断に役立てている。本書は,長年,出生前診断にフォーカスを当てて診療してきた著者が,これから妊娠初期胎児超音波検査を実践しようという医療者に有用な一冊となることを願い,その知見と術を惜しみなく伝授した「実践の書」である。

序文

 本書の企画は,胎児超音波検査を行う職種(医師,検査技師,助産師など)を対象に講義および実習を行う「FMC川瀧塾」の中の妊娠初期胎児超音波検査のパートを書籍としてまとめようという考えからスタートしました。このFMC川瀧塾は,神奈川県立こども医療センターの川瀧元良先生が実施されていた胎児心エコーを体系的・実践的に学ぶ「STICセミナー」に,妊娠初期の胎児超音波検査(当初はコンバインド検査のための技術取得を念頭に置いていた)をカップリングさせた講習会で,2017年からFMCクリニックの会議室で少人数制のセミナーをはじめ,コロナ禍への対応として2020年からはZOOMを用いた遠隔配信で全国から参加者を募り,運営してきました。そんな中,妊娠初期の胎児検査としてNIPTが行われるようになり,それと同時に胎児超音波検査の役割も変化・発展し,私たちのFMCクリニックで実施している胎児超音波検査も,海外からの報告などをもとに更新を続けました。これと同時に,FMC川瀧塾での講義内容も,今何が注目されているか,私たちは何をどう判断しようとしているのか,といった点に焦点を当てて毎回更新し続けました。

 そんな中,課題として浮かび上がってきたのは,講習を受けた方達が実際に妊娠初期の胎児超音波検査を行う場が限られていることでした。わが国では,医師たちが出生前検査・診断にあまり積極的ではない時代が続いてきました。やっと臨床検査としての実施に舵を切ったNIPTも,認証制度運営委員会による厳密な管理下に置かれました。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会による「産婦人科診療ガイドライン 産科編」においても,「胎児超音波検査」は「全妊婦を対象とした標準的検査ではない。」と規定されています。このため,多くの先進国では全妊婦が対象となっている妊娠中期の胎児超音波検査すら一律に行われていない現状で,一般的な妊婦健診のスケジュールに組み入れられていない妊娠初期の胎児超音波検査に携わる機会を得ることは難しく,これを指導する先輩医師もあまり存在していません。若手医師がこれを学び,技術を身につけようと考えても,体系的にまとまったテキストも存在しないことに気づきました。このことから,FMC川瀧塾で実施している講義を中心に,一冊の本にまとめようと思い立ったわけです。

 この企画を持ち込んだ時,メジカルビュー社が前向きに取り組んでくれることになったことは,ありがたいことでした。当初私が考えていたFMC川瀧塾での講義(6回分)を本にまとめるという企画に,日本の現状を鑑みて,出生前検査の現状とオーバービューや超音波検査の基本的な内容もまとめた総論も書き加えることになり,妊娠初期の検査についてしっかりとまとまった一冊にすることができたのではないかと思います。結果的に,私がFMC東京クリニックを立ち上げて10年(前身の胎児クリニック東京時代を加えると12年)の集大成ともいえるものになったことは,たいへん感慨深く感じています。本書が,これから妊娠初期胎児超音波検査も含む出生前検査を実践しようという医師の皆さんにとって,有用な一冊になってくれることを望みます。

 昨年春から,いろいろな思いを込めつつ執筆にあたってきました。私の医師としてのキャリアが40年になろうとする時に,本書を世に残すことができることは,これまで私を指導し,また支えてくださった方々のおかげです。私を胎児診断の道に導いてくださった故高田道夫先生,超音波の基礎から臨床診断までを直接ご指導いただいた竹内久彌先生,吉田幸洋先生,胎児診断専門施設であるクリニックの開院からこれまでを支えてきてくれた田村智英子さんはじめスタッフのみなさん,診療を手助けしてくれた勤務医師の皆さん,本書の企画から上梓まで1年以上の長きにわたり伴走してくださったメジカルビュー社編集部の工藤亮子さんに御礼申し上げます。ありがとうございました。そして何よりも,私の一風変わった経歴や特殊なクリニックの立ち上げと運営などにつき,長年にわたって公私両面から支えてくれた妻の早苗に,心より感謝いたします。

令和7年6月19日
中村 靖

目次

Ⅰ 総 論
第1章「NIPT時代の胎児超音波検査」とは
 「NIPT時代」とは何か?
  NIPTとは?
  「スクリーニング検査」という認識
  「胎児の遺伝学的検査」
  「採血のみで高い陽性的中率」をもつ検査の普及
  わが国における検査実施までの経緯
  『情報を積極的に知らせる必要はない』通知,思惑を外れた普及
  「NIPT時代」 〜動き出したわが国のNIPTと課題〜
 NIPT導入,実用化のインパクト
  NIPT導入による他検査への影響
  NIPT時代におけるNT計測の意義
 NIPTで何がわかるのか?
  胎児のDNA検査
  X,Y染色体の数的異常の検出
  染色体微細欠失の検出,その他
 超音波所見でチェックしているものは何?
  胎児超音波検査でみているもの
  妊娠初期超音波とNT
  「NT肥厚」というマーカー
  NT計測不要論?
  “early scan” という試み 〜NIPT時代の胎児超音波検査〜
  
第2章 なぜ「妊娠初期胎児超音波検査」が重要なのか
 「この胎児にNIPTを行う適応がありますか?」
  「妊娠初期超音波検査」事情,日本の場合
  産婦人科医がNIPTを行うべきとする理由
  1. 無頭蓋症(acrania)
  2. Body stalk anomaly
  3.全前脳胞症(holoprosencephaly)
 胎児の形態・構造異常はなぜ起こるか〜妊娠初期胎児超音波検査の役割・意義〜
  解剖学と発生学
  遺伝的問題
  二次的な問題
  異常所見発見後の検査と治療の可能性
   遺伝的問題の治療における妊娠初期胎児超音波検査
   二次的問題の治療と妊娠初期胎児超音波検査
 胎児異常を早期発見することをためらう心理とその対応
  わが国の人工妊娠中絶に関する土壌
  産婦人科医師の慎重さについて
  丁寧な診療と的確な説明が妊婦の主体的な意思決定につながる

第3章 妊娠初期胎児超音波検査のための装置の使い方
 いつ,どのような方法で検査を行うのか
 見たいポイントをよりよく見えるようにする
  妊娠初期と妊娠中期以降での見え方の違い
  妊娠初期の検査のアドバンテージと留意点
 装置の性能を最大限活用する
  検査に適したプローブを選択する
  見るべき対象を真ん中に配置し,十分に拡大する
  見たい位置に焦点を合わせる
  可能な限り,障害物を避ける
  
Ⅱ 実践編
第4章 妊娠初期胎児超音波検査の実際
 妊娠初期に見るべきものとその意味
  「見ているものは何なのか」
  妊娠中期の胎児との違い
 どのように胎児を見ていくか :合理的な検査の組み立て
  見やすい部位をどこからでも
  検査と断面
  胎児の一瞬を記憶に留める
  3D/4D超音波検査
  
第5章 胃がある側が左なのか,左側に胃ができたのか?〜体の左右軸の決定とその異常〜
 どちらが右で,どちらが左?
  経腹超音波と経腟超音波
  母体中心の見方,胎児中心の見方
  左右軸と異常の見方
 左右軸に関連する疾患:内臓錯位・逆位
  左側相同と右側相同
   先天性心疾患の特徴
   下大静脈の確認
  内臓錯位・逆位はなぜ生じる?
   原発性線毛運動不全症(PCD)
   左右非対称性が生じる過程
  左右軸以外の問題との鑑別
  
第6章 その厚みに何を見るのか。今後も見続けるのか。〜Nuchal translucency(NT)〜
 NT計測とは何か
  NT肥厚マーカーの発見と検査の変遷
  NTの“正体”
  必ずしも「NT=むくみ」ではない
 NTをきちんと計測できていますか?
  NT計測の時期や適切さ
  FMFが提唱するNT計測方法
  memo The Fetal Medicine Foundation(FMF)
 NIPT時代におけるNT計測の意義とは
  陽性的中率の格段の違い
  染色体以外の問題もすくい上げるマーカー
  0.1mm単位の計測はコンバインド検査のため
  NIPT時代のNT,「厚いか,厚くないか」
 そもそもNT肥厚とは何なのか
  「嚢胞」と「むくみ」
  計測のためのNT,病態のヒントとしてのNT
  
第7章 発達のごく初期段階。だが,すでに問題は生じている。〜頭部と中枢神経系〜
 妊娠初期胎児の頭部を見る4つのポイント
  1.横断像での頭部形態と頭蓋内構造
   21番染色体トリソミー(21トリソミー)
   18番染色体トリソミー(18トリソミー)
   13番染色体トリソミー(13トリソミー)
  2.矢状断での顔面の形態
   鼻骨欠損
   小顎症
   口唇口蓋裂
   frontomaxillary facial angle(FMF angle)
  3.矢状断での頭蓋内および頭部の構造
   後頭蓋窩の三段構造と二分脊椎
   脳幹部所見と二分脊椎
  4.冠状断での顔面の観察
  
第8章 体のどこよりも早くから大事な役割を担っている。〜心臓と静脈管〜
 心臓の検査
  妊娠初期胎児超音波検査の大事な項目
  心臓では何を確認すべきか
  4CVと3 VTV
  心臓の動きに適した設定
 静脈管
  additional markerとしての静脈管
  静脈管欠損と異常
  静脈管欠損と染色体異常
  
第9章 妊娠初期だからこそ直感的にわかる形態異常〜体表と四肢,その他〜
 体 表
  発生学から考える体表の異常
  臍帯ヘルニア
  Body stalk anormaly
  生理的臍帯ヘルニアの残存
 四 肢
  週数から考える骨系統疾患の特徴
  骨系統疾患とNT肥厚
  妊娠初期に見られる手指の形態異常
  妊娠初期に見られる下肢の形態異常
  足関節の形態異常と先天異常
 その他
  「胎児無動」とNT肥厚
  原因遺伝子特定の重要性
  
第10章 胎児検査の両輪。画像診断と遺伝学的検査〜胎児の問題に関する総合的判断〜
 それはマーカー陽性所見なのか,異常所見・症状なのか
  曖昧さについての理解と冷静な判断
  「確定的検査」と「非確定的検査」
 NIPT陽性のとき,羊水検査が必須なのか
  モザイクの場合,絨毛検査では判断できない
  NIPT+超音波検査を組み合わせた判断の効果
  18トリソミー
  13トリソミー
  21トリソミー
 NIPT陰性だがNT肥厚を認めたとき,どう検査を進めていけば良いのか
  NT肥厚を“normal variant”と判じる難しさ
  Ⅹモノソミー(Turner症候群)
  NT肥厚と心構築異常
  NT肥厚と骨系統疾患
  「NIPT陰性, NT肥厚,超音波所見なし」
 RASopathyをどう扱うべきか
  シグナル伝達経路異常疾患群
  NT肥厚とRASopathy
  私たち医療者のサポートとは
  column 遺伝カウンセリングの重要性に関連して〜遺伝学の知識と遺伝学的検査へのアクセスの問題〜
 たかがNT,されどNT そしてより洗練された出生前検査・診断へ
  計測値としての評価の先へ
  画像診断技術と遺伝学的診断技術と
  
補 遺 侵襲的検査の実際
 1. 準 備
  妊婦側のコンディション
  抗凝固薬服用
  発熱・炎症,血腫,筋腫
  実施時期,検査器具
 2. 羊水穿刺 amniocentesisの手順
  穿刺前の準備
  穿刺の実際
  穿刺後の注意
 3. 絨毛採取chorionic villus samplingの手順
  経腹法
  採取前の準備
  絨毛採取の実際
  採取後
 検査に伴う流産リスク
  データのアップデート
  求められる検査技術習得の機会の整備 

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中村靖・田村智英子編著『FMCテキストブック: 出生前検査・診断と遺伝カウンセリングの実際』(金原出版・2023年)

内容紹介

 国内における胎児診療の専門家集団が、出生前検査・診断の正しい知識や手技の実際、診療の問題点、遺伝カウンセリングの心構えやノウハウに至るまで、余すことなく解説しました。
出生前検査・診断をこれから行おうとしている医療従事者はもちろん、産科・胎児・周産期医療に携わるすべての医療従事者の道しるべとなる1冊です。

序文

 私たち人類は、この地球上の陸地の広範囲に分布し、特に私たちが日常暮らしている文明社会においては、他の生物種を差し置いて栄華を極めている。人類の誕生からこれまでの長い営みの中で科学を発展させ、疾患を克服し、種の存続を遂げてきた。しかしそれでもなお、我々は自然の中の一員であり続ける。医学の発展は、自然淘汰に抗うものであると同時に、それをあるがままに受け入れるべき必要性に気づかされる側面をもち、いわば二律背反の中で、いかに豊かな生を育むことができるかが、私たち医療に携わる者の目指すべきゴールなのだ。

 一昔前は、生まれてくる以前の母体の中の様子はブラックボックスの内部であり、新生児がどのような状態で生まれてくるかについては、知る由もなかった。しかし私たちは今、胎児の様子について画像で確認する手段をもち、生化学的なあるいは生理学的な評価を行い、内視鏡を用いて観察し、場合によっては生まれる前から何らかの手を下すことも可能になった。遺伝学の発展は、胎児が形作られる過程を解明し、その途中段階だけではなく、前段階からの判断や選択も可能になっている。そして今や遺伝子の改変に手をつけることも可能になろうという時代になり、人類は神の領域に手を伸ばしているともいえる段階に達した。

 こういった時代の急激な流れの中で、私たち医療者の果たすべき役割は多様化し、新たな情報に常に接し知識を更新し続けると同時に、新たな技術や知見の社会へのインパクトや受け取る側の多様性への理解といった、これまでの臨床現場では必ずしも目を向けられていなかった分野への対応や技術の習得が必要とされる時代に変化している。そんな中にありながら、特に出生前検査・診断の分野は、残念なことにわが国においては諸外国で普通に行われている検査が普及せず、国際的にみて特異な状況に陥っているものの、未だ有効な打開策が見出せない現状にある。本書は、これからこの分野の学習を行い技術を習得しようとする医療者が、その歴史的変遷から諸外国の状況を知り、広い視野をもって特異な国内事情からの脱却を図れるようになるための入門書として企画されたものである。妊婦に接するすべての医療者に本書を手にとっていただき、わが国における出生前検査・診断に関する情報提供が偏りなく行き渡り、すべての妊婦・家族が検査に関連して自律的な選択を行うことができるようになることを願っている。

中村 靖

目次

第1章 出生前検査・診断の歴史と現在
1.出生前検査・診断の歴史的変遷
2.出生前検査の両輪─ 画像診断と遺伝学的検査
3.出生前検査の国際比較

第2章 出生前検査・診断の実践
1.いつ、どの検査を、どう行うのか
2.染色体異常のスクリーニング検査
 1)妊娠初期の検査:NT計測とコンバインド検査
 2)妊娠初期の検査:他の超音波マーカー
 3)母体血清マーカー検査
 4)NIPT
3.侵襲的手技と検体検査
 1)羊水穿刺と絨毛採取
 2)染色体検査と遺伝子解析
4.胎児形態異常の検査
 1)妊娠初期の胎児超音波検査
 2)妊娠中期以降の胎児超音波検査
 3)胎児心エコー検査
 4)胎児MRI
5.妊娠を前提として妊娠前に行う検査
 1)着床前検査・診断
 2)保因者スクリーニング検査

第3章  出生前検査・診断に関する話し合い─ 明日から使える対話のヒント
1.臨床の場で、出生前検査・診断について話し合う─ 遺伝カウンセリングの枠を越えて
2.検査の選択に関する情報提供と支援
 1)数多くの選択肢の中から、何を選ぶのか
 2)様々な先天異常をどう説明するか
 3)非指示的・中立的な態度と対応
 4)検査するか、しないかの決断過程の支援
3.検査結果をいかに伝えるか
 1)確率をいかに伝えるか
 2)スクリーニング陽性/ 陰性をいかに伝えるか
 3)悪い知らせをいかに伝えるか
4.人工妊娠中絶をめぐる支援
 1)胎児の疾患がみつかったら? 中絶するかどうかの話し合い
 2)中絶についての話し合いにおける情報提供とガイダンス
5.円滑な話し合いのヒント─ 情報提供支援と心理的・社会的支援
 1)情報提供のコツ
 2)心理支援の基本─ 話を聞く、話をする
 3)自律的決定の支援の基本的考え方

第4章 出生前検査・診断の臨床で目指すべき方向性
1.出生前検査・診断と生命倫理─ 人工妊娠中絶・減胎をめぐる法的、社会的背景
2.今後の課題

索引

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