昨年会員になった、日本産婦人科医会から、新年最初の会報(2020年1月号)が届きました。(私は以前は長いこと会員だったのですが、ある時ふと疑問を感じて退会していました。しかし、開業医となった今、加入しておくことの必要性もあるかもしれないと思い、昨年再加入しました。この顛末についての詳細はここでは省略します)
この巻頭を飾るのが、『新春対談 日本産科婦人科学会木村新理事長を迎えて 両リーダー存分に語る』という企画で、日本産科婦人科学会の木村正理事長と日本産婦人科医会の木下勝之会長が、現在の産婦人科医療に関連する話題を語り尽くすというものでした。
ここで木村理事長が、「今も解決しないといけない問題が起こっている。」と言及された喫緊の課題が、『働き方改革への対応』『出生前診断等のさまざまな倫理問題』『HPVワクチン』の3つで、この問題について議論されました。3つのいずれもが、まさに早急かつ確実に解決しなければならないことであるということは私自身も共通した認識ですが、当ブログではその中でもやはり、『出生前診断等のさまざまな倫理問題』の部分、特に『出生前診断』について注目したいと思います。
対談の中でも特に注目したのは、『NIPTについて』と小見出しがふってある部分でした。
この部分、多くの話題のある対談の一部分ですので、深く掘り下げた議論になっているわけではないのです(従って、人によっては誤解されたり曲解して批判したりする方もおられるかもしれません)が、このお二人が今どのように考えておられるかの一端を垣間見ることができました。途中に以下のようなやり取りがあります。
木村 私は、本音を言うと、いろんな技術、新しい技術が、いわゆる一般診療レベルで既に海外でやられている技術を、日本の女性にだけ享受できないようにしていいのかなと。そっちも非倫理的なんじゃないかという気もしています。
木下 私も同感です。人は様々な考え方を持っていても、個人の自己決定権を認めた法律に従うことで、社会は動いているわけですから、入り口のところで規制をかけることは、おかしいと思います。
これまでこのブログで私が常々論じてきたことと一致しているではありませんか。
同じ問題意識と、同じ目標を共有しているんですから、私たちの力になってもらえないもんでしょうか。あまり上手くないやり方で結論を先送りにしてしまう元凶を作った日本産科婦人科学会の旧執行部から代替わりして、新体制になったのですから、心より期待しています。せっかく意見が一致しているのですから、おかしな新指針案をしっかりと見直して、私たちの意見に耳を傾けていただきたいのです。
産婦人科医がイニシアチブをとって推進しようとすると、必ずこれに抵抗しようという人たち(主に小児科領域の一部の人たち)が、強い調子で声をあげるんです。そしてマスコミもこれに乗っかります。これまでは、これに対してなぜか弱腰になったり変に忖度したりするのが常でした。しかし実は小児科の先生方にもいろいろな意見・考えの方がおられるのです。強硬な反対意見を続けている人たちに対して、「原理主義者」と言う声も聞かれます。産婦人科も小児科も、いつも同じ人たちを「専門家」としてありがたがるのではなく、職能団体の内部にももっとある多様な意見をしっかりと取り入れる必要があると思います。
産婦人科医以外の分野の人たちが抵抗する背景には、産婦人科医が信頼されていないという事実が確実に存在していると思います。そして、信頼されないのも仕方がないのかもしれないと思わせるような現状は、私たちの日常診療の中でも、妊婦さんから伺う話から感じることがありますし、たくさんの産婦人科医が集う席などでも気になることがあります。若手医師の研修の現場だけでなく、卒後教育や、ある程度の年齢・立場になってからの医師を対象とした成人教育など、しっかりとやっていかなければならないと感じています。
木村理事長は、問題解決へのキーワードの一つとして、リプロダクティブ・ヘルス&ライツを念頭にお持ちのようです。先日も、学会会員を対象に、リプロダクティブ・ヘルスの認知度調査のようなものが行われていました。普段日常的に妊娠・出産にまつわる様々な問題を抱えた人たちと接している私たちにとっては、今更この概念の認知度を調査するということ自体が違和感を感じるものでした。しかし、最近強く思うことは、自分が日常的に問題意識を持って考えている物事は、自分にとっては常識的なことのように感じていたとしても、違う立場の人にとっては時に全く興味のないことであり、ほとんど知られていない場合があるという事実です。そしてこのことは、同じ職能集団の中にさえ生じうることなのです。このような事実は、一般の方々には想像もできないことかもしれません。医師というだけで一律に見られているのではないかと思います。しかし、医師という分類どころか、産婦人科医という狭い(実際にはすごく広いのですが)一分野の専門医とされている人たちの中でも、大きな違い・開きがあるのです。
お二人のトップには、産婦人科医がもっとプロとして堂々と自信を持って新たな課題に取り組んでいくことができるようになるよう、強いリーダーシップを発揮して、課題解決への方策を推進していただけるよう、期待しています。