NIPTだけを厳しい指針で規制することによって何が起きているのか? (1)

これまで何度か、日本医学会ほかが提示している指針に違反してNIPTを行っている施設の話題や、なぜ当院ではこの検査を行うことができないのか、指針とはどのようなものなのかなどについて、記載してきました。
NIPTを行うための指針とは?(2016年10月25日)
「『母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査』についての共同声明」について(2016年11月25日)

NIPTの施行が厳しく管理されている一方で、それ以外の検査については、日本産科婦人科学会が平成25年6月22日に表明した、『出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解』http://www.jsog.or.jp/ethic/H25_6_shusseimae-idengakutekikensa.html が示されているにも関わらず、これが遵守されているとは言いがたい状況があるように思われます。

当院を受診される妊婦さんは、普段はかかりつけの医療機関をお持ちで、検査についてのみ当院に来院される方々です。通院中の施設は、一般の産婦人科クリニックや産科専門病院、中規模の総合病院の産婦人科もあれば、地域の基幹病院や大学病院のこともあります。普段そのような診療をお受けになっているのかや、これまでどのような診療を受けた経験がおありかなどを伺うと、施設によっていろいろな違いがあって、産科の診療指針というものは、必ずしも統一されていないと感じることが多々あります。とくに、出生前検査に対する姿勢や、行っていること、施設ごとの基本方針は、かなり違いがあると感じます。
前述した『見解』のなかでも、各種検査について、遺伝カウンセリングの重要性、検査結果の説明についての注意点などが細かく記されていますが、実際の現場で、検査前に専門的知識を有する担当者による遺伝カウンセリングがおこなわれていることはほとんどないように思われますし、たとえばNT計測について事前説明がおこなわれることもほとんどありません。
悪い言い方をすれば、NIPTが厳密に規制されている一方で、その他の検査については、野放し状態と言えるのではないでしょうか。
とくに気になるのが羊水検査です。前記『見解』の中に、以下のような解説があります。

(3)絨毛採取や,羊水穿刺など侵襲的な検査(胎児検体を用いた検査を含む)については,表1の各号のいずれかに該当する場合の妊娠について,夫婦ないしカップル(以下夫婦と表記)からの希望があった場合に,検査前によく説明し適切な遺伝カウンセリングを行った上で,インフォームドコンセントを得て実施する.
表1 侵襲的な検査や新たな分子遺伝学的技術を用いた検査の実施要件
1. 夫婦のいずれかが,染色体異常の保因者である場合
2. 染色体異常症に罹患した児を妊娠,分娩した既往を有する場合
3. 高齢妊娠の場合
4. 妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
5. 夫婦の両者が,新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
6. 夫婦の一方もしくは両者が,新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
7.その他,胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合

この中で、最近疑問に感じることが多いのは、『3. 高齢妊娠の場合』の項目です。
一般に、『高齢妊娠』というと、何歳ぐらいの妊婦さんが思い浮かぶでしょうか?
現在、NIPT検査を受けることのできる妊婦さんは、35歳以上とされています。このことから考えると、この35歳以上というのが高齢妊娠を指すと考えるのが、妥当ではないでしょうか。
そもそも、染色体の数的異常であるトリソミーの増加傾向が明らかになるという境界として、以前から35歳という年齢が一定の基準とされていたこともあり、私たちは、上記実施要件の3.については、35歳以上と考えるのが妥当だと思っていました。
しかし、実際に来院される方々の話を聞いていると、どうも臨床の現場では、あまり基準を明確にはしていないことが多いようなのです。
(つづく)