ほんとうにたくさんの症候群があるんです。

当院で遺伝カウンセリングや検査の説明をおうけになる方々とお話しする中で、胎児の検査でみつかるものというと、ダウン症候群のことだけが頭にある方がある一定数おられることがわかりました。ご親戚やお知り合いに、詳細はわからないけれども少し発達の遅れているお子さんがいらっしゃった場合、それをダウン症候群だと認識しておられるのですが、よくよく話を聞いてみるとどうもダウン症候群ではなさそうな症状であったり、別のもっと重い病気が想定される状況であったりすることがあります。ダウン症候群の方は数が多いし、世間で話題になるものは圧倒的にダウン症候群が多いので、ダウン症候群という名前はよく知られているのですが、そのほかのものについては、ほとんど聞いたことも見たこともないということから、ダウン症候群しか思い浮かばないということなのだろうとは思いますが、ダウン症候群とはどういうものなのか、そして世の中にはもっと違う病気や症候群がたくさんあるのだということが、もっと知られてもいいのではないかと思うのです。

「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」を行う施設として認定をうけている施設でこの検査(NIPT)をお受けになった方が、超音波検査をうけたいという希望を持って来院されることがあります。この時にお話ししてみると、18トリソミー(Edward症候群)や13トリソミー(Patau症候群)もダウン症候群だと思っておられる方がいて、驚かされることもあります。検査前の遺伝カウンセリングでお話しされているはずだと思うのですが。
検査をお受けになる際に、ダウン症候群でなければ安心と思っておられる様子であったりすると、違和感を感じますし、出生前検査についてマスコミが取り上げたり、議論になったりする場合に、ダウン症候群だけがとりあげられることにも問題があるように思います。もちろん、あまり知られていない症候群は、数が多くない(*)ので、たくさんある症候群全てを想定して妊婦さん全員が気にかけて検査

をしないといけないとは思いませんが、世の中には顧みられてもいないようないろいろな病気のお子さんがいるということは、頭にあってもいいのではないかと感じています。

*注 実は、数が多いのに知られていない染色体異常があります。たとえば、普通の染色体検査ではわからない22q11.2欠失症候群は、約2000人から5000人に1人で、18トリソミー(3000人から8000人に1人)よりも多いし、X,Y染色体の数的異常では、クラインフェルター症候群は男児の500〜1000人に1人、ターナー症候群は女児の1000〜2000人に1人です。

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写真は、当院で参考図書として使用している書籍です。目次のページでは、◯◯症候群、◯◯syndromeといった文字が並んでいるのが見てとれると思います。いろいろな種類の先天的な異常について解説した書籍は、かなりの厚みになります。この中には本当にたくさんの種類の症候群が並んでいて、それらの中にはたいへん珍しいものも含まれてはいるものの、当院における検査をきっかけに偶然見つかることもありますし、ここに記載されているようなたくさんの症例の蓄積がありながらも、いまだに診断がつかないお子さんもおられるのです。

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