産婦人科のお医者さんは、もっと自信を持って堂々と診療してほしい。後編

妊婦健診を担当しているお医者さんたちが、外部の医療機関で同時に受けている検査や治療について、意外に無批判に許容しているということがわかってきました。これは特に行われている治療が独自のものである場合、また一見研究成果に基づいていると思える場合に顕著なようです。

・先端的な医療のことは情報が少なくてよくわからない。

・(例えば切迫早産治療の場合)自分が治療を中止した結果、早産にでもなったら、自分が悪者になる。

・(例えば不育症治療の場合)自分が治療を中止した結果、万が一流産でもしたら、自分が悪者になる。

・特殊な治療を受けている人の多くは、宗教の信者のごとくその医師を全面的に信頼しているので、否定しづらい。

・特殊な治療を受けている人の多くは、たとえ根拠が希薄であったとしてもその治療に依存していて、中止することへの不安が強いので、言っても無駄な労力を費やすだけ。

以上のような状況が背景にあり、漫然と治療が継続される結果になるようですが、悪い言い方をすれば、独自の治療をおこなっている医師の思うツボです。

特殊な治療を行なっている医師たちの中には、自分の研究に強い自信を持っている(たとえそれがきちんと検証され、認められているものではなかったとしても)人もいれば、そうではなく単に商売目的の人もいると思われます。前者にも二種類あって、本当に真摯に研究を続けて、学術的にもきちんとしたものとして認められる可能性のある場合もあれば、個人の思い込みレベルで一見学術的な様相を呈しているだけの場合もあります。これらの違いは、素人さんにはなかなか判断が難しいでしょうから、本来であれば専門家たる医師たちが、きちんと振り分けて判断すべきだと思うのですが、医師は同業者を批判したり、同業者と戦ったりすることをあまり好みません(これは人にもよるが、どちらかというと好戦的な人は限られている)ので、弱気の対応になってしまうようです。特に患者さんが信じて受けている治療を否定することには勇気がいります。

でもお医者さんたちがもっと頑張らないと、下手をすると無駄な治療の餌食になる人が増えてしまうんです。がん治療において、標準治療を否定して民間療法に走るような人がいると、みんなは否定するけれど、妊娠に関連した問題では、「そんな治療やめなさい」と言えないのはどうしてなのでしょう。

まあそもそも産科医療の世界では、根拠の希薄なものや、思い込みに基づくものが多い印象はあります。以前にも取り上げましたが、切迫流産という病名をつけて安静にしなさいと言うことだって、もういい加減にやめるべきではないかと思うぐらいですから。

切迫流産で自宅安静って、どのぐらいの行動なら大丈夫なの? – FMC東京 院長室

そのように弱気なお医者さんたちですが、なぜか出生前診断については、厳しい顔をする人たちがそれなりにいるようなので困ります。私たちは常々、当院で検査を受けることは(特に絨毛検査や羊水検査のようないわゆる新種的検査を受ける場合には)、できるだけ主治医の先生にその旨伝えておいてほしいと言っています。なぜなら、妊婦健診を行う立場になって考えてみたら、自分の知らないところで担当の妊婦さんが針を刺す検査を受けているというのは、正直困るだろうと思うからです。

しかし、実際に受診する方は主治医には伝えにくいようで、主治医には内緒で検査を受けに来ましたという方が少なからずおられます。妊婦健診を行なっているお医者さんにもいろいろな傾向があって、私たちのところで検査を行うことを歓迎してくれる(むしろ積極的に紹介してくれたりする)人もいれば、出生前検査そのものに否定的で検査のことを聞いただけで顔をしかめるような人もいるようです。

ただ、全般的に言えることは、全てのしわ寄せが妊婦本人に向かう結果になることでしょう。医者同士できちんと議論したり、自分が責任を持って間違っていると思われる方針を否定したりはしない一方で、妊婦さんには「なんでそんなところに行くんだ」とか、「そっちでやっていることは俺は知らん」というような対応になって、妊婦本人の責任にされてしまう。例えば年齢の高い妊婦さんなら、流産の原因としてはおそらく染色体異常の可能性の方がはるかに高いだろうと思われるのに、何か自分の体によくないところがあるから流産するような気持ちにさせてしまう。そして薬を使えば改善されると思わせてしまう。そういうの、本当に良くないと思います。

産科医療はもっと変わらなければならない。少子化、分娩施設の減少、産婦人科医師数の減少など、様々な問題がありますが、医療そのもののあり方、妊婦健診や各種検査や分娩取扱の仕組みなど、変革が必要なことはたくさんあります(これはまた別の大きな問題を含みますが)。

それと同時に、今がんばって妊婦の診療を続けている医師たちは、たいへんだろうけれども日々勉強して、妊婦にしわ寄せが行くことなく堂々と診療できるようになってほしいと願っています。