開院時より当院での診療を担当している宋美玄医師が、丸の内にクリニックを開設して半年が経ちました。ということで、久しぶりにホームページを覗いてみたところ、あることに気づいたのです。
あ、そうか、美玄さん(うちではこう呼んでいます)、普段は白衣着てるんだ。
そう、当院では医師も白衣を着用していませんので、私は彼女の白衣姿を写真でしかみたことがありません。
もうずっと白衣を着ていないので、私にとってはそれが当たり前になっていたのですが、受診された方たちの中には、違和感をお持ちになった方もおられるかもなあ、と思いました。
私が白衣を着ない理由
なぜ白衣を着ないのか。
そもそも必要がないからです。
では白衣は何のためにあるのでしょうか?
世の中には、白衣を着ていると清潔と思っている方もおられるようですが、実は違います。白いものを羽織る理由は、実は汚れたらすぐにわかるためです。料理人が白いユニフォームを着ていたり、実験室で白衣を着用したりするのも、同じ理由です。
色のついた服装では、汚れが目立ちません。だからちょっと汚いものを着ていても目立ちません。しかし白衣なら汚れがすぐにわかります。医療の現場では、血液や体液がはねたりすることがあります。白衣ならそれがついたことがすぐにわかります。コートのような形のものを着用しているのは、そのような感染源になるものが、普段着用している服につかないように防護する役割もあるからです。
汚れたら目立つので、すぐに新しいものと着替えなければなりませんので、そういう意味では比較的清潔と言えるかもしれませんが、防護服として着ている以上、基本的に白衣は汚れる場所で着るものと言う位置付けですから、むしろ一番汚い衣類とも言えるでしょう。
さて、そういうわけで医療現場で着用されている白衣ですが、私たちの診療現場では、基本的に汚れる可能性が低いので、必要性があまりありません。いろいろな診察を行う産婦人科の一般的な診療現場では、その必要性は高いと思われますので、美玄さんが丸の内の森レディースクリニックでは白衣を着ているのには、十分な理由があるわけです。
唯一、絨毛検査や羊水検査の時には、着替えるようにしています(とは言っても、白衣ではなく動きやすいスクラブを使用していますが)。やはり流石にこういった処置を普段着のようなスタイルでやるのはどうかと思いますし、実際に血液や体液がついたりすることもありえるからです。
医者の白衣は権威と結びついているような印象も
だから白衣は、それを着用する必要がある場所で着ればいいと思うのですが、どうもそうではないようなところがあります。大学病院などでは、あまり白衣の必要性のなさそうな場でも、きちんと白衣を着ていないといけなかったりします。医者としての記号の役割を果たしているのでしょう。単なる記号であれば良いのですが、どうも医者の白衣は権威と結びついているような印象もあって、私はあまり好きではありません。ネクタイもあまり好きではない私は、大学病院時代、ほとんどの期間(冬でも)を所謂ケーシー型白衣で過ごしていました。時々テレビ番組で、たくさんの医者がひな壇に並んで、いろいろな話題に対応するようなものが放映されますが、このようなときにみんなが白衣を着てずらりと並んでいるのは、その(記号化または権威づけの)際たるものだと感じます。
私が以前勤めていた順天堂大学の病院でも、小児科の医師などは、わざと白衣を着ないで外来診療を行っていました。なぜなら、白衣を着ている人を見ると泣き出してしまう子供達がいるからです。円滑に診療を進めたいのに、白衣姿で怖がらせてしまっては、出だしから不利です。
実はこれは私のクリニックで白衣を着用しない理由の一つでもあります。そもそも必要がない白衣を着て権威づけしなくても、受診される方たちは専門施設だとわかって来院される方々ばかりです。そして、多くの方は、心配を抱えて来られています。怖がらせる要素は一つでも少ない方が良いでしょう。
また、意外に多くの方が、普段妊婦健診を受けている施設では、あまりいろいろと質問できないと感じておられます。短時間に多くの患者さんをさばく医療現場では、あまり時間をとっていろいろと聞くのもはばかられるし、そもそも医者には話にくい、ということでしょう。そのように心配や疑問を抱えて来院される方々に、少しでもリラックスしていただきたいという考えもあって、何か権威の香りのする白衣は、むしろない方が良いという考えなのです。
そういうわけで、当院では医師は白衣を着用していません。医者のくせに白衣も着ないで適当なやつだ。などと思わないで、普通に接していただけるとありがたいと思います。
先生という呼び方
なお、当院では基本的に医者だろうと別の職種だろうと、「先生」という呼び方をしていません。このことについてもいずれブログ記事として取り上げたいと考えています。唯一の例外は、胎児心エコー外来を担当している川瀧元良先生です。川瀧先生には、これまでもこれからもずっと教わることばかりで、私にとって常に「先生」だからというのが、例外となっている理由です。(実はこっそり「タッキー」と呼んでいたりすることもあるというのは、ここだけの内緒話です)