新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
さて、昨年末から新年にかけて、あいかわらず問い合わせで多いのが、「胎児がむくんんでいると指摘された。」という件です。この件については、わが国の妊婦診療の現場においては、ほんとうに混乱が多く、問題が継続しています。どういう問題があるのか、なぜそのような問題が継続しているのか、少しずつ整理して記載していきたいと思います。
・現在の問題点
胎児の“むくみ”をどう評価するのか、これがあった場合何が考えられて、どのように検査を進めていけば良いのか。この情報が正しい形で医師の間に浸透していないことが、問題の根本にあります。医師の説明が不十分な場合、説明を受けた人は、インターネットでいろいろと調べますが、ここでもろくな情報に行き当たりません。
・どう評価するのか
NT (Nuchal Translucency) (日本語では、胎児後頸部透亮像というのですが、この用語を使っている人はほとんどいません)の計測は、胎児の頭臀長(頭の先からお尻の先までの長さ)が、45mm〜84mmの時期に計測します。世界各国で目安として11週0日から13週6日とされていますが、日本人の胎児の大きさからみると、この時期はややずれて11週4日あたりから14週3日あたりが妥当かもしれません。
この部分を計測する際には、決められた断面において、決められた方法で計測する必要があります。まず、断面が「正中矢状断面」であること(画像上のいくつかの目安を用いて、正しい断面であることを確認します)。そして、胎児の上半身が超音波診断装置の画面いっぱいになるぐらいに拡大されていること。その上で、透亮像の部分が最も厚い部分について、その境界線上から境界線上までを計測すること。とされています。
しかしながら、当院に相談してこられる事例をみますと、上記条件に当てはまらない状況で、「むくみがある。」といったような表現で指摘されているケースが散見されます。たとえば、胎児がまだ小さい、正確な矢状断面ではない、画像が十分に拡大されていない、計測位置が正しくない、などです。
・なぜこの評価方法が普及していないのか
NT を計測して、厚みが増している胎児を発見することが、胎児の異常の発見につながるということは、Nicolaidesらが1992年に発表して以来、改良が加えられながら、妊娠初期における一般的な検査として多くの国で実施されています。しかしながら、日本では1998年に厚生科学審議会が、『母体血清マーカー検査に関する見解』において、出生前検査に関する消極的な見解を表示して以来、胎児の異常を発見する目的でのシステマティックな検査が普及せず、多くの妊婦健診の現場では旧来のやりかたが続けられてきました。
つまり、現在の日本の妊婦健診のシステムは、妊婦の安全のためには十分に機能している優秀なシステムではあるものの、胎児を観察して診断に結びつけるという点では、まだまだ不十分な状態のままなのです。それでいて、超音波診断装置は国内津々浦々の産婦人科診療施設に行き渡っており、超音波検査自体は頻繁に行われていますので、予期せず胎児後頸部の透亮像が一見厚く見えることがあります。多くの医師は、この部分が厚く見えることが胎児の異常発見につながるという知識はある(ただ、正確な計測法のトレーニングは積んでいないし、より詳しい内容の知識には乏しかったりする)ので、中途半端な形での指摘につながってしまう問題があるのです。