NT肥厚に関する論文が、掲載されました。

あいかわらず胎児に「むくみ」があると指摘されたという相談がよく来る中、「海外のデータばかりでなく、自分たちのデータもちゃんと示して説明に使えるようにしたい。」と思っていたわけですが、学会発表したものをようやくまとめることができ、論文として投稿したものが、掲載にこぎつけました。

 冊子体の形では、次号ということになるのですが、オンラインバージョンとしてEarly Viewという形で世に出ましたので、ご報告しておきます。

Yasushi Nakamura, Satoko Fujita, Kenji Yamada, et al. Outcome of the fetuses with severely increased nuchal translucency thickness in the first trimester. JOGR

 今回は、NT(Nuchal Translucency: 胎児後頚部透亮像)の肥厚がある胎児の中でも、肥厚の程度がより強いケースをあつめて、実際にどういう経過をたどったのかをまとめたものです。そもそもは、私たちが胎児の評価を行う際に頼りにしてきた、Fetal Medecine Foundationが出しているデータに基づいたグラフの数値が、どのくらい当院を受診されたケースに当てはまるのかを確認したいというのが出発点です。ここに示したグラフのように、NTの厚みが6.5mm以上あるケースではその65%に染色体異常がある一方で、15%は問題なく生まれて育つ、同様に5.5mmから6.4mmの間の場合は50%が染色体異常だが、30%は染色体も正常で合併症もないとされていて、NTが厚いと指摘されたり、同時に全身がむくんでいると言われて絶望的になっている人にも、中にはそれが単に一時的な変化に過ぎず、なんでもなく生まれてくるケースが実際にあるということを、自分たちの施設のデータも踏まえて明確に示し、希望が持てるようになってほしいという思いがありました。

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 発表した内容を大まかに記載しますと、結論的には、概ね近似した結果が得られました。私たちのデータでは、2013年9月から2018年8月までの5年間の間に、NT 6.5mm以上のケースが112例、5.5mmから6.4mmのケースが50例ありました。それぞれの中で胎児の染色体について確認できたケースのうち、71%および57%に染色体異常が存在しました。染色体正常だったケースの中にも、胎児死亡に至ったケースがあり、結果として出生に至ったのは、それぞれ15例および13例でした。最終的に出生に至り、合併症もなかった児はそれぞれ10例(9%)および13例(26%)でした。

 私たちは常々、NTが厚いということは、その時点の現象であって病気があることとはイコールではないことや、この計測はあくまでもこれをきっかけに何か問題が存在していることを見つけにいくことに使われる指標の一つであることについて、相談者に説明するのみではなく、機会があれば発信し、医療者に対しても普及活動を行ってきましたが、まだまだ私たちの発信している情報の浸透度は微々たるものでしかないと感じていました。しかし、私たちの仕事がきちんとした査読を経た論文という形で世にでることは、学術的に認められたものであるという証明になります。活動としては地道なものですが、信頼される専門施設であり続けるためにも、今後も努力して続けていきたいと考えています。