NIPT (Non-Invasive Prenatal Testing) は、日本医学会をはじめとした学会などの学術的な場では、「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」と表現されることが一般的なのですが、なぜかマスコミなどは、「新型出生前診断」と表示しています。この時点で既にミスリードが生まれていると思います(そもそも“診断”ではない)が、それだけではなく、この検査の内容や日本での扱われ方について、日本の人たちはほとんど分かっていないのではないかと思えてきました。なぜなら、当院に寄せられるお問い合わせの中で、当院で行なっている検査との違いがよく理解されていないと感じることが多いし、医師(それも産婦人科医)でさえよく知らないでいる人が多いことがいろいろな場面で感じられるからです。情報提供が不十分で、あまり浸透していないわけです。その理由についてはいろいろと考えられますが、今回はそこは置いておいて、日本と海外との違いに焦点を絞って論じたいと思います。
ポイントはいくつかあります。
・どこの国でやっているの?
・どういったことが検査できるの?
・誰が検査を受けられるの?
・どういう形で検査を受けることができるの?
・料金はいくらぐらいかかるの?
まず1回目は、何が検査できるのかという点についてです。
NIPT。多くの人は、3種類のトリソミー(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)の検出を目的とした検査だと認識されているのではないでしょうか。あるいは、ダウン症候群を見つける検査だと認識しておられる人も多いでしょう。(実際に来院される人たちにお話を伺ってみても、21トリソミーがダウン症候群だということや、他の二つはダウン症候群とは違うということなど、よくご存じない方が多いと感じています。たとえば、高齢妊娠が心配で来院される本人やその夫でさえ、このことについてご存じないことがあります)
しかし、NIPTの技術はどんどんと進んでいます。日本において、高齢妊婦を対象に3つのトリソミーを検出する検査として『臨床研究』している間に、海外では、もっと多くの疾患を対象に、実際の臨床の場で検査が提供されています。
検査内容や検査対象は、各国によって少しずつ違っていますが、参考までにインドネシアで受けることのできる検査(情報元:インドネシアで検査を扱っている検査会社のページ http://www.cordlife.co.id)について記しますと、
1. トリソミー
21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー
2. X, Y染色体の異数性
Xトリソミー、Xモノソミー(ターナー症候群)、XXY(クラインフェルター症候群)、XYY
3. 欠失症候群
5p-症候群、1q36欠失症候群、22q11.2欠失症候群、7q11.23欠失症候群(ウィリアムス症候群)、17q21.31欠失症候群、17p11.2欠失症候群、15q11.2欠失症候群(プラダー・ウィリー症候群、またはアンジェルマン症候群)、18q欠失症候群、4p-症候群
4. 性別判定
おそらく検査を受ける全員がこれらすべてを調べるわけではなく、一部の項目はオプションだと思いますが、希望に応じて選択可能になっていると考えられます。(たとえばベトナムでは、4. 性別判定は、国の方針として受けられなくなっているようです。これは、文化的に性別によって妊娠中絶を選択する人が多いことが理由だそうです。)
これだけ多くの項目が、子宮に針を刺すことなく検査可能になっています。日本にいる多くの人たちは、ご存じなかったのではないでしょうか。
最近では、母体血を用いた胎児全ゲノム解析の臨床への導入についての議論もされるようになってきています。一方で、3種のトリソミーに絞って、『臨床研究』という形でのみ検査を行っているという我が国の現状に、疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。そもそも何の研究なのか、ということも問題なのですが、このことについてもあまり話題には上りません(このことについても言及したいのですが、また別の機会にします)。
次回以降は、世界の各国の状況を確認していきたいと思います。