今年5月に、ある民間企業がキャリアスクリーニングを国内導入しようとしているという記事が、読売新聞に載りました。劣性遺伝病の疾患遺伝子の保因者検査をおこなうことで、重大な劣性遺伝病をもった子どもの出生を防ぐという考えに基づいた検査は、ある特定の人種においては特に、これを行う意義が高いことが考えらえること(なぜなら、その人種ではとくにある種の疾患遺伝子の保因者頻度が高いことが知られているから)もあって、海外では普通に受けられる検査になっています。しかし、これまで日本ではこの議論が進むことがありませんでした。そんな中、突如としてこの計画が明らかになったので、関連学会は対応に追われることになりました。
このことについて、遺伝関連の検査を専門におこなう当院としても、一度整理しておかなければと考えていたのですが、宮城県立こども病院・東北大学大学院の室月淳教授が記事にまとめてくれていました。以下がその記事です。
その後の経緯 – Fetal skeletal dysplasia forum
検査会社の計画の発覚を受けて、国内9学会が足並みをそろえて声明を発表しました。商業主義に基づくとして、強い懸念を示しました。これを受けて、検査会社側は、サービス提供計画を撤回しています。
この検査の導入には様々な議論が必要ですし、しっかりとした遺伝カウンセリングを行うことができる体制も必要です。海外で行われているものと同じ検査セットが日本人には必ずしも有意義ではない(むしろ日本人においては検査対象として考えなければならない別の疾患を対象に考える必要がある)ことや、同じ疾患でも検査で確認できる遺伝子の変化以外の原因があるために、期待される検査精度になりえない心配があるなど、まだまだ解決すべき課題が多いことも事実です。しかし課題が多いから検査を行えないというのではなく、こういったことも含めて遺伝カウンセリングをおこなった上で、検査を受けるべきかそうは思わないかについて自己決定していただく過程を形成することができれば、明らかに恩恵を受けることができる家系もあるはずです。
社会を変えるための法整備や教育も必要でしょう。しかし私たちは、できない理由を探すのではなく、どうすれば有効に実施できるようになるのかを考えていくべきだと思います。室月教授も述べておられるように、検査がただ提供されなければいいというのではなく、今後どのようにしていけば良いのか、導入のためにはどういった準備が必要かという将来的方向性を見据えた議論を進めていかねばならないと感じています。