日本の妊婦には、「知る権利」が保障されていない!? 指針に見る彼我の違い。

新指針の中の記載には気になるもの(ツッコミを入れたくなるもの)が多くあるのですが、特に引っかかる文言がありましたので、今回はこの記述に焦点を当てたいと思います。それは、[6]NIPTに対する医師、検査会社の基本的姿勢です。ここには、こう書かれています。

NIPTの実施施設であるかないかに関わらず、すべての医師はNIPTに対して次のような姿勢で臨んで差し支えない。

1. NIPTについて医師が妊婦に積極的に知らせる必要はない。ただし、妊婦が本検査に関する説明を求めた場合には、医師は本検査の原理をできる限り説明し、登録施設で受けることが可能であることを情報として提供することを要する。

2. 医師は、NIPTを妊婦に対して安易に勧めるべきではない。

まだこのような姿勢だったのですね。

20年前に厚生科学審議会から出された「見解」とまったく同じ文言が、そのまま生きているのだなと感じます。

日本産科婦人科学会は、全国の産婦人科医が検査を扱えるように規制を緩めようとしていることを批判されているようですが、ここを読む限りあまり広がらないようにという慎重な姿勢が見えますね。ただ矛盾しているだけとも言えますが。

「積極的に知らせる必要はない」という言葉が特に気になります。別の言い方をすると、「こっそり隠しておこう」というようなものではないですか。妊婦が選択できる検査の選択肢を示さないでおく、という姿勢は、果たして医療として正しい態度なのでしょうか。たいへんに疑問です。

以前から講演の機会があるときに話の中に時々入れているのですが、例えば、American College of Medical Genetics(米国の遺伝診療の団体)の出しているガイドラインの中に、胎児染色体の数的異常と神経管欠損についての項目があり、この中での推奨項目として、以下の記述があります。

・すべての女性が、胎児染色体の数的異常を確認するための羊水穿刺またはもし可能なら絨毛採取を受ける選択肢を与えられるべきである。

・もし当初は確定的検査を受けることを望まなかった場合でも、妊婦の年齢にかかわらず、妊娠20週以前の妊婦健診に訪れた際に、染色体数的異常や開放性二分脊椎のスクリーニング検査の選択肢が提示されるべきである。もし、このような検査によって結果を得ることを望まなかった場合には、検査を望まない理由を記録しておくべきである。

つまり現時点では、もう米国では絨毛検査や羊水検査といった侵襲的な検査の安全性も高まっているので、これを受けることについては特に制限もないし、しかし侵襲的検査を望まない場合には、非確定的なスクリーニング検査を年齢にかかわらず受けることができるということなのです。

また、2008年のシンガポールの産科医・婦人科医の団体(College of Obstetricians and Gynecologists, Singapore)による、「21トリソミーおよびその他の胎児染色体数的異常についての推奨される’BEST PRACTICE’ガイドライン」では、一番目の項目として、以下の記載があります。

・年齢にかかわらず、すべての女性が胎児の染色体数的異常の可能性があると認識され、その検出のための検査を提案されるべきである。すべての女性が、胎児の染色体数的異常のスクリーニング検査を受けることができることについて、知らされるべきである。

このように、通常は世界のどんな国でも、「妊婦が知る権利」が保証され、医師には検査の選択肢を伝える義務があると考えられています。

しかし、日本では、出生前検査の存在については、なるべく情報公開しない方が良いというのが、学会の基本姿勢のようです。検査実施施設の拡大に反対している人たちがいうならまだしも、日本産科婦人科学会がそういう姿勢だとは驚きです。日本の妊婦さんたちは、そんな中である人は何も知らないままに、またある人は不安を抱えつつ、出産に臨まなければならないのです。