妊娠と新型コロナウイルス感染 海外からの報告 5: 妊娠初期感染妊婦2例において、羊水からは検出されず

日本でも、新型コロナウイルス感染妊婦の出産が北里大学病院であったようです。無事出産され、母児共に健康に退院されたとのことで、喜ばしい限りです。

 このほかにも、感染した妊婦さんの情報が時々舞い込んできています。現在妊娠中の方にとっても、自分もいつ感染するかわからない状況で、心配されていることと思いますが、健康な妊婦さんなら妊娠中だからといって普段よりも重症化しやすいということはないということは、これまでに紹介してきた海外からの報告でも述べられていることです。まずは感染対策、しかし感染したからといって慌てず、早めに帰国者・接触者相談センターに相談しましょう。

厚生労働省作成の妊婦向けリーフレット

 

 さて、今回は以前から気になっている垂直感染(母体から子宮内の胎児への感染)に関連した報告を紹介します。これは、The Lancet Infectious Diseasesの電子版(まだ冊子体の形になっていない速報段階のもの)として、4月22日に公開されたもので、きちんとした論文ではなくCorrespondenceなので、まあ編集部への手紙というかそういう形態のものです。著者は武漢の華中科技大学同済医学院医院の産婦人科医たちです。

 妊娠の比較的早い時期に新型コロナウイルス感染の診断を受けた2例の妊婦に対して、妊娠中期に羊水穿刺を行って感染の有無を調べた結果、感染は確認されなかったという結果を伝えています。

 1例目は、34歳の初産婦で、1月26日(妊娠8週5日)に咳の症状が出始め、すでに夫が発熱の症状から検査を受けて新型コロナウイルス感染症の診断となっていたため、同30日に入院しました。2月3日に撮影した胸部CTで、両肺に明白なウイルス感染像が見つかり、臨床診断が確定しました。2月13日(妊娠11週2日)にはCTで改善傾向が見られたため、退院し、自宅での観察に切り替わりました。

 2例目は、27歳の経産婦で、2月1日(妊娠8週4日)から始まった、発熱、倦怠感、下痢、呼吸苦といった症状が進行してきたため、2月12日(妊娠10週1日)に外来を受診しました。この時に鼻咽頭ぬぐい液からのPCR検査陽性、同14日に行ったCTでも、両肺に典型的なウイルス感染兆候が見られました。自宅隔離後、発熱が持続するために、2月18日(妊娠11週0日)に入院しましたが、28日(妊娠12週3日)には、連続する2回のPCR検査陰性と、CT画像上の改善傾向により退院となり、自宅での観察となりました。

 この2人は、3月23日(妊娠16週6日、妊娠15週6日)に行った血清中の抗新型コロナウイルス抗体検査で陽性、咽頭からのPCR検査陰性が確認され、同26日(17週2日、16週2日)に同意の上で羊水穿刺が行われました。この羊水を用いて行った検査の結果、2名のいずれもPCR検査陰性で、抗体検査もIgM, IgG共に陰性でした。同日に妊婦自身の血清中IgM, IgG検査を行ったところ、IgGについては両名とも陽性でしたが、IgMは1例目の妊婦のみが陽性でした。

 この2例において、羊水中からは新型コロナウイルスが確認されなかったからといって、妊娠初期および中期に垂直感染が起こりうる可能性はぬぐいきれない理由はいくつかあると述べられています。以下に列挙します。

1. 羊水中では、RNAはDNAに比べてより不安定(コロナウイルスはRNAウイルス)である。

2. 明確な結論を得るためには、2例だけの検査結果では不十分。

3. 同じRNAウイルスである、ジカウイルスに感染した妊婦における羊水検査では、一時的に陽性であったケースしか報告されていない。

4. 羊水検体を採取した時期が適切でなかったために、ウイルスが発見できなかった可能性がありえる(検査に最も適切な時期は、18週から21週とされている)。

 ということで、今回の調査研究はまだ症例数も少なく、臍帯血も採られていないので、評価は限定的ではあるものの、この結果が新型コロナウイルスが垂直感染を起こすか否かについての理解につながることに期待すると、著者らは述べています。

 今後、世界各地からこのような調査研究のケースが集まって、最終的にはレビュー論文としてまとめられ、確実な証拠につながっていくことに期待しています。