発表された『指針』を読みつつ、気になる点について指摘していきたいと思います。
なお、この『指針』は、いきなり『指針』として出てきたもので、(案)ではありません。パブリックコメントを募集するなどの手続きは省略され、はじめから決まったものとして発表されています。
文章の一部をピックアップしつつ、意見を述べていきます。
はじめに
1.出生前検査認証制度等運営委員会について
報告書において、「幅広い関係者が参画する形で、NIPT 実施施設等の認証制度を新設すべきである」とされたことを受け、産婦人科や小児科、遺伝医学等の関係学会、医師・看護師等の団体、ELSI(倫理・法・社会)分野の有識者、 障害者福祉の関係者、患者当事者団体、検査分析機関の関係者等幅広い関係者を構成員とし、厚生労働省関係課も参画する出生前検査認証制度等運営委員会(以下「運営委員会」という。)が、令和3年(2021 年)11 月に日本医学会に設置された。
以前から気になっているのは、こういったことを決める場に、本当の当事者である「妊婦とその家族」「子育て中の親世代」「これから妊娠を希望している若者世代」の代弁者が含まれないことです。「有識者」や「患者当事者団体」はいつも入るのですが、「検査を受けるべきなのかどうか」「検査を受けることができるのかどうか」といった問題に直面していて、そしてこれからの将来にこの国の社会を形作っていく主役であるはずの人たちが、この問題について意見する場を与えられず、決められた方針を享受する以外にない立場に追いやられているのです。
2.本指針について
本指針では、情報提供については出生前検査全般を対象とし、医療機関や検査分析機関の認証については NIPTのみを対象とした。
日本医学会として、NIPTの実施のために必要な情報提供や施設認証のあり方を示し、出生前検査に関わる者が遵守すべきものとして示すものである。
なぜ、NIPTのみを特別扱いするのでしょうか。
出生前の検査には様々な種類のものがあり、それぞれの人の状況やニーズに合わせて、適切なものを選択していく必要があります。何をどう選択すべきかについての情報提供を検査全般にわたって行うことは、良いことだと思います。その上で、NIPTだけを特別なもののように扱う理由が明確ではありません。
このような特別扱いをしてきたから、今回の混乱が生じてしまったのではないでしょうか。NIPTを行うことができない市中の産婦人科クリニックなどでは、世界的には過去の検査になってしまった「クアトロテスト」などの血清マーカー検査が、適切とは思えない扱われ方で実施されています。この検査はNIPTよりも曖昧な結果しか出せない上に、検出率も劣り、陽性的中率に至ってはかなり低いものです。不必要な羊水検査につながる恐れさえある検査です。また、羊水検査なども、経験の豊富ではない医師が稚拙なやりかたで行っているケースもあるようです。このような現場の問題点を常日頃から見聞きして知っている私たちにとって、NIPTのみを囲い込むような方策の継続は、これまでの失敗の本質を理解していないとしか思えません。
何度か指摘してきましたが、これまでこの検査の体制をコントロールしてきた人たちは、その失敗を総括し反省した上で、仕組みを作り直す必要があったのではないでしょうか。以前のものを少し修正すれば事足りるという考えで臨んでいたのでしょうか。
「はじめに」の部分から、時間をかけたわりには過去の失敗に向き合っていない、失敗を糧にしていないと思えるような部分があり、これで良いのだろうかと不安になりますが、それは次に続く「I 基本的な考え方」があるからだと思います。この部分がなにより大事なメインパートであり、この考え方に基づいて全てが決められるのです。次回は、この部分について考えていきたいと思います。