このブログで何度も取り上げている、NIPTの問題。厚生労働省の専門家会議が今年3月に終了し、半年が経過したのですが、その後の動きはどうなっているのでしょうか。厚労省のホームページをみると、5月24日に報告書が公開されています。NIPTについて、どのように実施する形となるのか、方針はいつ知らされるのでしょうか?
当院はそろそろ限界です
私たちは、ずっと待ち続けています。学会の決めた指針に従って、検査を扱うことができないまま8年が経過しました。この間、その指針そのものに関する疑問を呈して、日本産科婦人科学会あてに公開質問状を送付(回答なし)したり、正面突破を目指して施設認定委員会に申請書を出し(門前払い)たりしてきましたが、状況は何も変わりません。
しかし、私たちを取り巻く状況は大きく変化しました。なんといっても大きい変化は、この検査を扱う医療機関が急激に増え、またその宣伝が大々的に行われるようになったのです。そのほとんどは、学会の認定とは無関係な施設です。多くは産婦人科のクリニックではありません。産婦人科の中でも特殊な、出生前検査・胎児診断に特化した診療を行い、一般的な産婦人科施設では対応できないケースの紹介も多く受けている当院が、NIPTのみ行うことができない中、産婦人科ですらないクリニックが血液を取りさえすれば良いという簡便性に目をつけ、倫理観のかけらもなしに金儲け目的に検査を行なっているという現状が、どんどん悪化の一途を辿っているのです。
この状況、もうそろそろなんとかしてくれないと、当院自体の存続にかかわるぐらいまで影響を受けています。限界が近づいています。
当院が認定を受けられなかった理由は?
当院はなぜ学会の認定を受けて検査を実施できないのか。どこよりも専門的な施設だと自負しているようだが、なぜそれが学会に認められないのか?という疑問を持つ方もいらっしゃると思います。これは実は単純な話です。新指針が示されるまではこれまでの施設認定の指針にもとづいて認定が行われるわけですが、その指針の中に、『分娩を取り扱っている施設であること』という決まりがあるからです。
この決まりが存在する理由としては、検査を受けた方が、検査後の妊娠経過や周産期の管理をきちんと受けることができるようにということのようです。要するに、検査だけやって、あとは知りませんというような施設では検査を扱ってほしくない、出産やその後まできちんと責任持ってフォローしてもらいたい、という考えなのでしょう。それはよくわかります。それでは、認定を受けている施設では、そこのところ、きちんとしてくれているのでしょうか?
羊水検査以外の道はない?
実は、認定施設でNIPTをうけた方でも、『陽性』という結果説明を受けて当院に相談に来られる方がおられます。その理由は、ほとんどの認定施設では、NIPT陽性の場合には羊水検査での確認が必要とされ、羊水検査が可能となる時期まで特にすることはないと言われてしまうからです。これに対して、われわれの施設では、『精密超音波検査』『絨毛検査』というオプションがあります。
これまでにも学会発表や講演や講習会など、いろいろな場でこれらの様々な専門的な検査を総合的に扱って判断することのメリットを伝えてきましたが、そもそも超音波検査に信頼を置いていないという医師がいたり、総合的判断を行う柔軟性のない医師や、それを許さない上司がいたりして、なかなか対応してもらえなかったりします。絨毛検査自体、行なっている施設も行なった経験のある医師も少なく、その安全性についても間違った情報提供(危険性を過大に説明する)が行われていたりします。
それどころか、当院で超音波検査と絨毛検査をうけて、診断が確定という結論を出しても、自施設で羊水検査をしていない場合には人工妊娠中絶は請け負うことができないと言われてしまうケースもあります。この頑なさはなんなのでしょうか。いったい誰のため、何のためにNIPT検査を扱っているのでしょうか。どういう遺伝カウンセリングをしているのでしょうか。
そこのルールに従わないと見捨てられてしまう仕組みで良いのか
分娩施設を持っていても、自施設の論理にそわない人はどこかへ行ってくれと放り出すのでは、それは責任を持ったフォローとは言えないのではないでしょうか。私たちは分娩施設は持っていませんんが、出産を希望される場合でも中絶を希望される場合でもかならず分娩施設に繋ぐようにしているし、投げ出すことはせず紹介先との連携を密にして、その後のフォローも続けています。分娩施設をその場所に備えているか備えていないかという、物理的な条件とは別に、大切な対応があるのではないでしょうか。
そもそも認定施設自体、足並みが揃っているとは言えません。自院に通院していて自院で出産予定としている妊婦さんだけを対象としている施設もあれば、通院先・分娩先は関係なく受け入れている施設もあります。後者の場合、最後まで面倒を見ているわけではないところも多いのが事実でしょう。指針の中のこの項目自体が要するに絵に描いた餅なんですよ。
お産を扱っている病院で初めから終わりまでずっと妊婦健診で通院して、出産も産後も面倒見てもらうという時代はとうの昔におわっていて、今は出産予定の施設と、妊婦健診で通っている施設が違う人などあたりまえにいる時代です。規模や人員配置に違いがある複数の施設で、病診連携、病病連携などをしっかりとやっていく時代なんです。前近代的な、分娩を扱う施設だけが妊娠を最後まで責任持って見ることのできる施設という考え方は、もう通用しないという認識を持ってもらいたいと思っています。
NIPTの現状は、このように学会の認定をうけない商売優先の施設が多数横行することと同時に、認定の仕組みの歪さや認定施設の頑なな態度があって、認定か非認定かという単純な話ではなく、どちらにしても問題があります。厚生労働省が、検討している新指針を策定・実行するにあたっては、せっかく時間をかけているのだから、こういった側面にきちんと光を当てて視線を注いで、今後妊娠する人たち、これからの世代にとって、よりよい形になるようにしていただきたいと切に願っています。