FMF胎児クリニック東京ベイ幕張の内覧会に行ってきました。

9月27日に開業した、「FMF胎児クリニック東京ベイ幕張」の開業直前に行われた内覧会に参加しました。内覧会とはいっても、密を避けるため1グループごとの予約制で、私と当院の山田医師の2名で伺いました。

 院長の林伸彦医師は、まだ学生の頃から胎児の診断と治療に興味を持ち、海外の胎児診療センターを見学して、自分の進む道を定めたそうです。以来、日本では思うように進んでいないこの分野について、どうすれば良い形にできるのかを追求しつつ、医師としてのトレーニングと社会環境の整備の両面に取り組んでこられました。いろいろなしがらみの中で、紆余曲折しながら現在の道にたどり着いた経歴の私から見ると、自分の信じる道を一直線に歩んできたように見える彼の足跡は、羨ましくも思えるほどしっかりしています。

 長年、胎児の診断に取り組んできた立場から、彼の活動は以前から応援していました。上の写真は9年前に、ギリシャのコス島で開かれた学会(Fetal Medicine FoundationのWorld Congress)に参加した時のもの。下の写真は、いまから6年前だと思うんですが、彼と、現在新宿南口レディースクリニックを開業している市田知之医師が、これからロンドンのFMFに留学しようとしているという話を聞いて、一緒に日本の出生前診断・治療の将来について語り合った時のものです。

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 彼のすばらしいところは、今ある問題点を解決するために、さまざまな方向から働きかけ、解決の道筋をつくっていこうとしているところです。私たちがレールに乗ってイメージしてきた医師の仕事とは全く違ったアプローチができること、さまざまな立場の人と繋がりをつくって、医療だけではなくともすれば社会そのものを変革させていこうという行動で、それがひいては医療をよりよくすることにつながる道につづいていくビジョンがあるようです。これが今よりも若い頃に暮らしていた、ソーシャルアパートメントでの様々な人たちとの出会いも、その礎となっているようですね。クリニックの開設も、それは決してゴールではなく、これから展開していこうとする大きな仕事の一つの構成要素なのだと思います。もちろん大事な一拠点であることは間違いないし、だからこそこの場所を選んだのだろうと感じましたので、今回の開院は大きな一歩だし、本当におめでたいことだと思いました。

 さて、訪問したクリニックですが、それはそれはすばらしいロケーションで、驚きの連続でした。なにより幕張の海岸にほど近いビルの47階ですから眺望がすばらしい。そして内装は静かで落ち着きのある場所となっています(実は建築士さんたちにつくりたいクリニックのイメージを口で伝えることが難しく、こういうものだというのを見せるために当院に連れてこられたこともあったのです)。何よりも驚いたことは、このすばらしい眺望、そしてまだ使用しない部分も含めた広いスペースで、当院よりも家賃が安いことでした。まあ、当院のビルもどちらかといえば近隣の他のところより良心的な家賃だと思うのですが、何せ都会の真ん中ですからねえ。こんなにも違うものなんですねえ。

 しかし、前にも記載したように、クリニックの開設はあくまでも第一歩です。私たちも感じていることですが、われわれが取り組んでいる医療は、まだまだ十分に認知が進んでいない分野です。感じている問題点は以下のような点です。

・多くの妊婦さんは、いつも受けている妊婦健診で十分だと思っている。超音波をあててみているので、胎児についてもみてもらえているものだと思っている。(実際はそうではないことが多い)

・したがって、わざわざ時間とお金をかけて胎児の検査のために、普段とは違う医療機関に出向こうと考える人は、妊婦さん全体から見るとごくわずかな人数にとどまっている。

・胎児の診療は、一般的な医療として認識されていないために、現状では保険診療の仕組みの中に取り入れられる方向性が全く見えず、出生前検査・診断には余計な経済的負担がかかることとなる。

つまり必要性の認識が不十分なわけですが、これは、妊娠している本人やその家族においてそうであるだけでなく、行政に携わる人々にも伝わっていないし、日常診療を行なっている医師たちでさえ、同じような感覚でいたりするのです。だから、現状では私たちの施設は、受診のハードルが高いのではないかという気がするし、身近な存在になり得ていないと感じています。

 胎児は、この国・この社会の将来を担う大事な存在です。健やかに育むことが、未来にとって何よりも重要なことだという考えを、もっと社会全体に浸透していけたらと常々考えています。私たちの診療や活動が、そのための力となり得るよう、お互いに切磋琢磨しつつ発展していけることを望んでいます。

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