染色体異常が判明した場合には中絶しなければならないという決まりは無い
これまでの記事
(前回から続きます)
この後
お腹に宿ったこどもの命の選択をしたくない、という妊婦もいる。そのような弱い立場の人たちを擁護すべきであり、どんな子であっても小児科医は寄り添い、救いの手を差し伸べます、ということを全面的に示さねばならない。
と続くのですが、この前段はもちろん理解した上での検査提供体制を作ってきたはずです。誰も検査を強制していませんし、むしろ検査に否定的な産婦人科医も大勢います。また、検査結果で染色体異常が判明した場合には中絶しなければならないという決まりもありません。
検査は妊婦の自由意志で受けるか受けないかを選択できるし、産むか産まないかも決めることができる(現状では母体保護法指定医と配偶者の許可のもとでですが)のです。なぜ『命の選択をしたくないという妊婦』が『弱い立場』とされ、検査を希望したり中絶を選択したりする妊婦は弱い立場ではないとお感じになるのでしょうか。マジョリティだから弱い立場ではないとお考えなのでしょうか。後段はもちろん大事なことでしょうし、これが「出生前コンサルト小児科医」を創設した理由なのでしょう。少し後にこのような文があります。
出生前コンサルト小児科医とNIPTの「過度な勧奨」とは?
連携施設でNIPTに関する遺伝カウンセリングを実施するのは臨床遺伝専門医か認証を受けた産婦人科医である。「出生前コンサルト小児科医」に与えられた使命は中立的な立場からの遺伝カウンセリングではなく、こどもの代弁者として、染色体異数性をもって生まれてきたこどもたちの成育状況や福祉の在り方などを説明し、十分な小児医療や福祉のサポートを受けることができることを伝えることである。
これはわかります。まあ産婦人科医にはこどもの代弁者たる立場は期待できないだろうなという思いが伝わってきますが、これはある程度仕方がないとして、これに続く文章が気になります。
過度なNIPTへの勧奨を監視し、受検することに戸惑っている妊婦に対して寄り添い、検査を受けない自由を尊重することが求められている。
“過度な”NIPTへの“勧奨”というのは、どのようなものなのでしょうか。
日本の妊婦診療の現場では、このブログでも何度も言及してきたように1999年の厚生省児童家庭局長通知以来、四半世紀にわたって出生前検査が積極的に行うべきでないものとしての扱いをうけつづけ、いまだに妊婦さんが検査の相談をしようとするだけで医師から叱責されることもあるような現状の中で、出生前検査・診断に関する情報や理解が深まらず、話題として取り上げられる際には必ずといっていいほどに「命の選別」という悪いイメージを定着させるワードで語られるような中、誰が過度な勧奨をしているというのでしょうか。
もしそのような事をする者がいるとすればそれは、認証制度とは無関係にビジネスとして検査を扱っている美容系を中心としたクリニック群やそのバックに存在するベンチャー企業でしょう。
紆余曲折はあったとしても、いろいろな立場の人たちが集まってつくった認証制度の枠組みの中で、より良い形で検査を進めていこうとしている現場に疑いの目を持ち、過度な勧奨を監視するといった態度から受検の門戸をいたずらに狭めることが、翻ってこのような議論を横目に実際に過度な勧奨を行って商売にしようとしている者たちを利する結果になってしまうことに気づいて欲しいと思うのです。
監視すべきは認証施設の産婦人科医ではなく、非認証施設のはずです。
(続く)