日本産婦人科学会(日産婦)からNIPTの新指針(案)が提示されて以来、連日のようにブログを更新しています。たいへんな危機感を持っています。
しかし、微妙に疎外感を感じるのは、私たちは一般的な議論(この検査を広げるべきなのか規制すべきなのかという議論)とは少し違う立場にいるからです。
私は、きちんとした形でなら、この検査がもっと広い範囲で多くの妊婦さんたちが受けられるようになること自体にはむしろ賛成なのです。しかし、これまで地道に出生前検査・診断を丁寧に扱って実績を積んできた私たちを置き去りにしておいて、ちょっと講習を受けただけの医者が扱えるようにするという方針に問題があると思うわけです。
さて、私も産婦人科医として大学病院を中心に長年働いてきましたので、今回の件についても少しずつ情報が入ってきました。なぜこういう案になったのか、これからどうしたいのかが少しわかってきました。
・一番の目的は何か。
なんといっても、認定の仕組みとは全く関係なしにNIPTを扱っている施設が増えてしまったので、これをなんとか抑えないといけない。なにしろ美容外科クリニックなんかが勝手にやっているわけですからねえ。それで産婦人科医は強い規制のもと手が出せないんですから。妊婦が受ける検査を産婦人科医の手中に取り戻したい。というのが最も強い気持ちだと思います。まあ当然のことだと思います。
・なぜ分娩可能施設、母体保護法指定医の存在が必要とされたのか。
まず基幹施設ありきなのです。これまでの指針に基づいて認定された施設を中心に据えるのが妥当ということでしょう。その上で、連携施設を加えるにあたり、
1. 数多く存在する不妊専門クリニックがNIPTを扱えるようにしたくない。
2. 分娩(中絶も含め)が必要なケースを基幹施設に丸投げして欲しくない。自施設で面倒見てもらいたい。
という考えが浮かんだようですね。そこで、自施設で分娩が可能という基準が作られたわけです。
まあそりゃあ、外来専門クリニックで検査やるだけやって、分娩は全部基幹施設に丸投げされたら、たまりませんよね。理解はできます。
・これからどうもっていきたいのか。
どうも今回は、日産婦は、半ば強引に力技で決めたいようですね。少し前に行われた会議か何かの席で、日本人類遺伝学会の幹部の先生たちと意見が合わず、険悪なムードになっているという噂まで入ってきました。だから臨床遺伝専門医が軽視されているのか。
先にも書きましたように、私はこの検査が多くの妊婦さんたちにできれば分け隔てなく提供されるようになるべきだと考えていますので、この検査を扱うことのできる産婦人科医が増えることは良いことだと思いますし、やはり産婦人科主導で行うべきだという気持ちはあります。そういう意味では、日産婦の考えていることにはシンパシーも感じます。しかし、実際によくわかっていない産婦人科医から不適切な説明や対応を受けてきた人を毎日のように診療している立場から見ると、もっとしっかり勉強してやってもらわないと困るとも考えています。簡単な講習でよしとせず、継続的な学習を義務付けるなどの案も練るべきではないかと思います。
今の指針(案)のまま進めてうまくいったら、これを他の出生前検査(例えば羊水穿刺や絨毛採取といった侵襲的手技を伴う検査など)にもこれを適用しようという考えも出てくるんじゃないかという危惧もあります。そうなったらそれこそ、私のクリニックにとっては死活問題です。
しかし、ただ文句を言っているだけでは何も前に進みません。
そこで、私は対案を作成することにしました。いそいで作成したものですので、まだまだ練り足りないところはあるかもしれませんが、いま示されている「基幹施設」「連携施設」の考え方よりも、より良い案にできているつもりです。ぜひ皆さんに見ていただきたいと思います。