さて、昨夜のNHKニュースです。
厚生労働省は、日本小児科学会などが実施施設の拡大に反発していて、「混乱を避けるためには国が対応する必要がある」として、この夏にも検討会を設置して、検査の在り方を議論していくことを決めました。
これを受けて日本産科婦人科学会は、22日開かれた理事会で新たな指針を正式に決定しましたが、その運用は国の検討会の方向性が示されるまで見合わせることを決めました。
ということなんですが、つまり厚生労働省が重い腰を上げた背景には、学会同士の対立があるということなんですね。
これまでは、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本人類遺伝学会などの取りまとめ役として日本医学会に委員会を設置してやってたんだけど、医者たちに任せておいたらまとまりがつかなくなったから、国としてまとめ役を買って出たといったところでしょうか。
毎日の記事によると、“出生前診断について国が検討に乗り出すのは20年ぶり” とありますが、これは忘れもしない妊娠中期の母体血清マーカーが普及してきたときのことです。このとき、厚生科学審議会が出した、「母体血清マーカー検査に関する見解」で、
「医師は妊婦に対して、検査の情報を積極的に知らせる必要はない」
とされたことが大きなインパクトとなり、それからの20年間この国では出生前検査は積極的に行うべきではないものとして扱われてきたのです。この間、胎児を検査するという点において、日本における診療は世界各国と比べて大きな違いが生じ、遅れをとる結果となりました。
あれから20年、時代はかわり、人々の生活状況も変化しました。さあ、今回はどのような結論が出るのでしょうか。新たに設置される審議会では、建設的な意見が出るのでしょうか。それとも、従来と変わらない結果となるのでしょうか。そしてそこには、本当にこの問題に関わる人たち、つまりこれから妊娠・出産する人たち、この国の将来を担う人たちの意見は反映されるのでしょうか。
正直のところ、私はあまり期待していません。
そもそもこの問題、もっと早い段階から医学会に丸投げしないで国が主導的立場でやるべきだったんです。産婦人科学会が暴走しそうになったから調整しないといけないということになり、慌てて対応するという印象がぬぐえません。だいたいこの学会同士のいがみ合いも論点がずれていると思うのです。
日本小児科学会も日本人類遺伝学会も、この検査の実施のためには、多職種が加わった体制での十分な説明が必要という主張が中心だと思います。そもそも当初の指針にそういうものが盛り込まれていましたので、今回外されることに強い異議、抵抗感があるのでしょう。しかし、私たちが考えるべきは、実際に妊婦さんたちが検査を受けることを考えるにあたって、小児科医や遺伝の専門家からの話を聞くことがどの程度必要度が高いかという原点に立ち返って考える必要があるのではないでしょうか。最初にあまりにも厳しい基準を作ってしまったことが、現在の混乱につながっているのだから、その体制を何としても維持しなければならないと考えるのではなく、どこが修正可能なのかを考えるべきです。小児科医や遺伝専門医がどの段階でどのように関与すべきかを現実的に考えるべきでしょう。実際に現在妊婦さんたちがどのような診療体制のもとに置かれているのか、それはそのままで良いのか、よく考える必要があると思います。
そういう観点から、私はむしろ、日本産科婦人科学会が産婦人科医主導でもっと検査を実施しやすくしようという姿勢を示したことに同意するし、むしろこの点については賛成なのです。いつまでも美容外科医や皮膚科医が適当に検査をしているのを指をくわえて見ているわけにはいかないのです。
単純にいうと、産婦人科医と小児科医(それもどちらかというと一部の人たち)のいがみ合いの様相を呈している状況は不毛です。この問題はもう少し掘り下げていかなければならないと思うので、またしっかりまとめたいと思いますが、この不毛ないがみ合いを仲裁するために厚労省が審議会を設置するつもりなら、物事があまり良い方向に進まないと感じるのは私だけではないと思います。
20年前に「検査の情報を積極的に知らせるべきではない」と言われて以来、この国の妊婦は胎児の問題についてある場所では目隠しされ、ある場所では不必要なあるいは誤った情報を突然与えられ、何がわかって何がわからならないのかすら判断できない状況に置かれてきました。この分野が歴史的流れに沿って進まなかったために、新しい技術が入ってきた途端にまた大騒ぎになり、そして20年前の再現のようになるようなら、もうこの国では安心して妊娠出産をすることは無理なんじゃないかと絶望する女性も増えることでしょう。