NIPTの現状に満足してはいられない

ブログ更新頻度が落ちていたことに気づく

 最近、「妊婦健診で指摘されたことが不安で調べていたら、ブログにたどり着いて、受診を決めました。」とか、「YouTubeみました。」とか言ってくださる方がじわじわと増えてきている印象があります。

 何年か前から地道にタネを撒いてきたことが、ようやく少しずつ芽を出し始めているという感じでしょうか。

 そこでふと気づいたのが、しばらくブログを更新していなかったということです。どうやら自分の中で、一時期のような情報発信に関する情熱が下火になっているようです。昨年秋からNIPTを扱うことができるようになって、窮地から脱したことで、必死さがなくなっているのかもしれません。

 「これではいかん、もっと積極的に情報発信を続けなければ。」と思い、熱く燃えていた過去を振り返ってみることにしました。

 たとえば1年前、まだNIPTを開始していない自分は、何をしていたのだろう。もちろん、このときにはもうNIPT開始の目処は立っていたので、それ以前の数年よりは気分的には落ち着いていたとは思うけれど、そんなに気持ちの余裕が持てる状況ではなかったはずなのです。

 SNSなどで発信した記録を振り返ってみると、1年前の今頃は、NIPT実施に向けての申請書類の提出も済んで、約2週後に控えていた第44回日本母体胎児学会のディベートプログラム『NIPTの認証基準は必要か否か』での発表に向けての準備に勤しんでいたのでした。

 昨年7月のブログ記事でもこの話題を取り上げています。

 あれから一年、理不尽な思いを抱えつつ辛い時期を乗り越え、いまは少し静かにやるべき仕事をやるモードで日々を送っているわけですが、決して現状に満足しているわけではありません。まだまだいろいろと解決すべき問題があるのです。

認証機関では禁止されている検査と、それを安易にやってしまう未認証施設と

 自施設でNIPTを扱うことができるようになったことで、出生前診断の専門施設でありながら、他所でやっている検査について「うちではできません」と説明して送り出すようなことがなくなりました。ようやく、出生前診断を行う施設として『普通』になったというわけです。

 しかし、技術的に可能な検査を全て扱うことができるかというと、そうではありません。

 いろいろな検査項目の中で、「これはまだやってはいけません」というものが、『出生前検査認証制度運営委員会』によって決められていて、これを守らないと検査実施医療機関としての認証が取り消されてしまうおそれがあるのです。

 一方で、この検査は、『運営委員会』に認証されていない医療機関で行ったからと言って、法に抵触するわけではありませんので、認証制度とは無関係に行う施設が存在します。そしてこれらの施設では、検査会社が開発してここまで可能になったというものをすべておこなうという姿勢で、認証施設では扱うことのできない様々な検査を行っています。

 その検査にどのぐらいの信頼性があるのか、また検査を行うべきだと考えられる適応に合致するのか、さらには検査を行うことが生命倫理の観点からの問題につながらないか、などいろいろな課題をすべてスルーして、「これだけ多くのことがわかって安心できますよ」と宣伝し、高い料金を取って検査をおこなっています。

クリニックに届く様々な問い合わせメールから見えてくるもの

 NIPTに関連して当院に届く問い合わせメールを見ていると、以下のような質問がよくあります。

・34歳以下の妊婦ですが、NIPTを受けることができますか?

・受診回数は何度になりますか?

・カウンセリングは夫婦揃って受診しなければいけませんか?

・胎児の性別はわかりますか?

 これらのうち、上の3つは、認証施設として検査を行っている医療機関のある一定数が、検査を受けるまでにある程度厳しいハードルを設けてきていた、これまでのありかたに関係していると思われます。

 「35歳以上の妊婦が対象」とか「一度遺伝カウンセリングをうけて、夫婦でよく考えてから後日検査」とか「カウンセリングは必ず夫婦揃って」とかはすべて、義務というわけではないし、私たちはこういう条件はあまり意義がないと考えているので、そうすべきとも思っていません。

 検査は何歳の方でも受けていただけるし、来院回数はいろいろな工夫によって少なく(最低1回)できるし、遺伝カウンセリングにしろ検査にしろ、夫婦が揃うことが必須とは考えていません。

 しかし、いくつかの施設では、これらの条件付けが必要という姿勢のところもあるようで、認証施設というと、そういったイメージが根強く残っているのかもしれませんね。

 これらのほかにも、「微小欠失を調べることができますか?」という質問もあるのですが、この質問はそれほど多くないように感じています。多くの方は、この検査の意義や必要性が今ひとつよくわからないし、そんな病気見たことも聞いたこともなかったので、イメージできないということもあるのではないでしょうか。いまのところ、心配性の傾向があってネットサーフィンで調べ物をすることの多い人が、この検査に興味を持つけれど、それは多数派ではないのかもしれません。

 今私たちが気になっているのは、「胎児の性別」問題です。無認証施設の多くは、性別がわかると宣伝していますが、それは本当に正しいのか。出生前検査認証制度等運営委員会では、NIPTの対象を3つのトリソミーに限定し、X,Y染色体については検査してはいけないことになっているけれど、それはなぜなのか。

 次回は、この問題についてまとめてみたいと思います。